夏前日

創作小説その2の3







僕はいくつか目の高架下を歩いた。

そこは、国道をくぐるように落ち込んでおり、まるで冷たい空気がそこに溜まっているかのようにひんやりとしていた。



日差しは強まっている。太陽は天頂が近いのだろう。



僕は暗い高架下を歩きながら外のあまりの眩しさに目を伏せた。

と、自分のスニーカーが目に入った。ゆっくりと、まるで泥沼を進むかのように靴は視界を出入りした。

そのスニーカーは、太陽の薄い光に照らされて、なんだかものすごくくたびれて見えた。

茶色く汚れたそれは、本当に泥沼を進むかのようだった。



僕は冷たい泥沼を抜けて、また日の下を歩いた。そこは暑くて、眩しかった。

僕はできるだけ川に近いところを歩いた。風が冷たいかと思った。だけど、川で遊ぶ親子が見えただけだった。

親子は、川を走り回り、魚とりをしているようにも、追いかけっこをしているようにも見えた。彼らはずっと笑っていた。この暑く眩しい日差しの下で、はじけたように笑っていた。子供がコケに足を滑らせ、盛大な水柱を立てたときも、ただ笑って、抱き起こしてはじゃれあっていた。彼らは輝いていた。一点の曇りもそこには見出されなかった。川の水のようにどこまでも澄み渡っていた。



夏が来るのだ。

そのことだけは確かだった。僕がどんなに祈ろうが、切望しようが、夏がやってくる。

喚いたって、叫んだって暴れたって、部屋に閉じこもっていたって、雲は動き、夏は来る。葉はその色を濃くし、散歩する人も犬も汗をかく季節になる。



そして人は変わる。

夏の暑さで線路だって曲がってしまうのだ。人なんて、簡単に変わってしまうだろう。でも、僕はどうなのだろう。



夏が来て、秋を挟み、冬になり、春が来て、また夏に至る。きっと、そうなるだろう。

夏の後には春はこない。冬は秋と入れ違ったりしない。それは、ほとんど確定事項なのだろう。だが、僕はどうだ。



僕の行く先には何がある。何が待っている。何に変わる?

確かに夏は輝いている。これほどに無く希望に満ち溢れている。

生命の最盛期。

未来への可能性。

そしてその発見。

だけど僕の先には、白と黒しか見えない僕の目には、何も映っていないのだ。

いいや、もしかしたら何かがあるのかも知れない。ただ見えていないだけなのかも知れない。でもそれが何なのか、全く分からないのだ。目の前には、白と黒の混ざり合った薄暗い灰色の靄が広がっているだけだった。



川は潮の匂いを強くしながら海に近づいている。

夏が来ることがこんなにも明白なのに、僕は僕自身の少し先のことすら分からない。

向こうに海が見えてくると、波の音が聞こえてきた。一歩踏み出すごとに潮の匂いがよりはっきりとしていく。



相変わらず汚い海だ。

僕は海に着いたら何をしようかと考えながら歩を進めた。







=====完=========



短編は思うままに書いてるせいか、ちょっと雑な部分がありますね



その2の2→http://d.hatena.ne.jp/ayuse/20090622/p1