屋上のひと

創作小説その一の一









季節は夏も終わり、そろそろ少し肌寒くなってきた頃だ。

虫たちは次の夏に備えて越冬の準備を始め、木々は散々光合成をして貢いできた葉を切り捨てている。動物たちは、あるものはこの土地を去り、あるものは食べ物を蓄え、あるものは人里に降りたりする。まあ、それはいい。生き物たちは確実に冬へと進みつつある。



なのに、だ。

地球は何を思ったのだろうか。今日はやけに暑い。まるで卒業ぎりぎりに、単位の足りないのに気づいた大学生か何かのように、必死で暑い日を稼いでいるような気がしてならない。

まあしかし、今年の夏は短かったと言えよう。7月の終わりごろにやっと扇風機の出番かと思っているうちに、8月の終わりにはもう、団扇で十分になっていた。



元来僕は、四季のうちでどれが好き、と聞かれたときに、秋か冬、と答えるような人種であったから、個人的には万々歳であった。一応言っておくが、無類の読書好き、とか、天高く馬肥ゆる秋、といったものとは全くの無関係である。



ところで、どこにでも何かにつけては反対したがる輩というものはいるもので、僕が葉っぱと虫のいなくなった環境を両手をいっぱいに広げて迎え入れているのにも関わらず、その輩の一人である、相田は僕のことを、侘びしい奴、などというので、年中熱帯低気圧野郎と言い返してやったところ、相田の頭の中は?でいっぱいになったようだった。別に根拠はないのだからそうなって当たり前だろう。



僕らは学校の屋上で手すりにもたれ、次に雲が陽を隠すのを待っていた。

いくら今日が暑いといっても、日陰にはそれなりの涼しさがあったし、それは時に寒さにもなった。

それはそれで心地よかった。屋上からなら、やけに冷たい風に吹かれながら、日に照らされた街を見下ろすことができる。その暖かそうな光を欲することができる。



凍えながら、体を震わせながら、僕は目下の街を見下ろした。陽気のせいか、この前できた大手スーパーのせいか、人々が何かに誘われるように歩いていた。まあ、当たり前だが、知った風体の人は見当たらない。もしいたとしても、わからないだろう。それにもしかしたら、皆知った人たちなのかもしれなかった。まあ、結局はわからないのだけど。

雲が途切れ、光が戻ってきた。それはそれで心地よかった。





………つづく…と思う