S.S.

夏前日

創作小説その2の2 僕は立ち上がると、河口の方へと歩き出した。ここからいけば二十分ほどで海につく。 河川敷から道路となっている防波堤まで登り、車の全く通らない道を下る。桜や松が乱立していて、影も多い。木漏れ日がひらひらと漂っている。なんだか…

夏前日

創作小説その2の1 夏なんて嫌いだ。 僕は川原のベンチに座り溜息をついた。 そのままずり落ちるようにして空を見上げた。 「夏なんて大嫌いだ」 口に出してみた。言葉は枯れた葉のように風に簡単にすくわれると、どこか遠くへと飛んでいった。 そして代わ…

屋上のひと

創作小説その一の一 季節は夏も終わり、そろそろ少し肌寒くなってきた頃だ。 虫たちは次の夏に備えて越冬の準備を始め、木々は散々光合成をして貢いできた葉を切り捨てている。動物たちは、あるものはこの土地を去り、あるものは食べ物を蓄え、あるものは人…