ファイア・ウォール







「僕らはあまりにも考えすぎる」




そんな一節がある。
チボー家の人々だ。
灰色のノートで、彼らは多くの言葉を交わす。


考えすぎる。
いたってくだらない事だ。
今日の天気とか、友達の言葉だとか、難解で立ち向かえそうに無い問題とか。
そんなことを、考えて一喜一憂してる。
いまだってこんなくだらない頭の中を垂れ流してる。
僕らはあまりにも多感で、鈍感で、多忙で、退屈で、積極的で、消極的だ。
僕はいつも頭の中を、入りきらないゴミ箱みたいに、いっぱいにしとかないと不安なんだ。
僕は電車に乗りながら、外の景色をぼんやり眺めて、この電車はどこまでゆくんだろう、って
そんなんじゃないって、思いたいんだ。
頭の中に少しでも隙を作ると、まるでせりあがってくる水みたいに、浮かんでくる、疑問。
自分に対する疑問だ。
それはいつも、僕の事を精一杯否定しようとする。
なんとしてでも今の僕を否定して、絡め取ろうとする。
君らの言ってる事は、わかるんだ、それは100%正しいんだ。
だけど、僕にとってそれは、間違い以外の何ものでもない。
君の成功は、僕の失敗で、今までさんざ聞かされてきた数多の’偉大な’先人達の成功と、達成は、僕にとって破滅への道でしかない。
そんなものを鼻を膨らませて僕に突きつけないでおくれよ。


したがってみようとした事がある。
自分を消して、状況に従順になってみようとした。
3日でとてつもない不安に襲われて、やめた。


僕はあまりにも考えすぎる。
そうしないと自分が保てない。
他者の言葉はあんまりにも、そう、甚大に、強すぎる。
大きすぎる。
君らの考えがあまりにも重いから、
僕は自分を固めて守ろうとする。
そうしないと自分が見えない。
塵のように降り注ぐ君らに覆われて、僕はすぐに見えなくなる。