モラトリアム






ハンドルを切る。



舟を漕いでる船頭みたいだ、とか思いながら、いつもより重いペダルをまわしていく。


スピードはそのままに体を傾けてインで攻め!


・・・なんて出来るはずも無くて、僕はのろのろとスピードを落としてのろのろと角を曲がった。
一人増えるとこんなに重いんだな。。。
どこか気の無い陽があたりにふり積もっていて、それを風が吹き飛ばしていく。
風が強い。
まだ春一番、なんて季節じゃないのにさっきからびゅうびゅう吹いて、僕の髪はそれに為す術もなく右へ左へ時には吹き上げられたりして、もはや鳥の巣みたいになってる。見えないけどそうなってるに違いない。

伸びた髪が目に入る。ちくちくする。

自転車に乗ってサイクリング気分を味わえるのなんて、初夏か晩夏ぐらいだろうな、と僕は思った。
それ以外は暑過ぎたり寒過ぎたり風に飛ばされそうになったり傘を離せなかったりで、「風が気持ちいい」とか「風が髪を梳いていくみたい」とか言えるのはせいぜいテレビの中の人間だけだ。
現に僕は理不尽な強風の中、慣れない二人乗りなんてのをやらされているわけで。
部活から離れて久しい僕の脚の筋肉は悲鳴を上げるときを待ち望んでいるようにしか思えない。



「そこ、渡る」
背中からの仰せの言葉に従い、僕はまだ赤信号の横断歩道の手前で止まった。
「うわっ・・・げぇ」
止まるとすぐにバランスを崩した。
後ろの荷台から落ちそうになった彼女は、あろうことか両肩に置いた手で僕の首を掴んだ。
ツメがめり込む!
「お、りろ、降りろって・・・」
僕が針の穴みたいな声で叫ぶと彼女は小さく悲鳴を上げて荷台から飛び降りた。
危うく絞め殺されるところだった・・・。
僕が非難のまなざしで彼女を見ると、彼女も眉を寄せて見返してきた。
「へたくそ」
「うるせぇ」
きれいな顔にしわを寄せて言うんだから勝てるわけがない。
大体ひとりでスイスイ漕ぐのが好きな奴にこういうハイスペックな行為(二人乗り)要求するなっての。
しかもこいつ両足を片方に揃えて乗るから、余計にバランスを取りにくい。嫌がって腰に手を回さないし。
「慣れてないんだから仕方ないじゃんか」
「でもいいって言った」
「いや言ったけど」
いいとは言ったけどできるとは言ってない。そう言い返そうとしたけど彼女は前を指差してまた荷台に乗っかった。
青信号。
気をつけてスタートする。腕と脚がプルプルしそうになるのを耐えてスピードを上げる。
「渡ったら、左」
「はいよ」
丁寧にハンドルを切って曲がっていく。うん、ちょっと上手くなってきた。
これならいけるかな、と少しスピードを上げるとそれがわかったのか、肩に置いた手の力が強くなった。
また首を絞められかねない。
僕は風を上手く掴み切れないヨットみたいな走行を再開した。


風が少し緩み、太陽の暖かさがようやく伝わってくる。
そういえば、そろそろ訊いておいたほうがいいかもしれない。
「なあ、お前の家ってどこなんだ」
首を少し傾けるようにして後ろを振り返りそういうと、寸刻置かずに彼女は言った。
「こっちのほう」
いや、呟いたの方がいいかもしれない。もし風が吹いていたら彼女の言葉なんてあっというまに風に吹き飛ばされてしまっていただろう。
そのほうが良かったのかもしれない。なぜかそう思った。











って書き出しで何か書こうと思ったけどリズムが悪いので中止。
その気になったら再開するかもです


















あゆせ